taken-one

 あるべき場所から切り取られたもの.動作の根源となるものを失ってもなお動き続けるそれは,乾いた音を鳴らし続ける.
 あらゆるものを切り取り,他の何処かへと貼り付けることは随分と簡単になった.本質を失ってもなお動き続けるモノ,コト,ヒトは,あたかもそれが自然であるかのように社会の常識にのまれてしまった.
 そんな溢れ出んばかりの無意味に私たちが溺れてしまわぬように.私たちがそれに近づきすぎないように.ひっそりと,力強く,taken-one(竹の音)は鳴り続ける.


taken-one は,水がなくても動き続ける鹿威しです.

技術的には,下の箱の中で回したカムの動きを,縦の竹の中で平行リンクを構成し伝達しています.カムは本物の鹿威しの動きから計算し製作しました.

上に示したキャッチフレーズはYouTubeの動画説明欄に書いたものです.この作品は,コンセプトに強いこだわりを持って製作しました.

また,ニコニコ動画の動画説明欄のキャッチフレーズはこのようにしました.

「ない」ということは,創造を行う上で初めに必要になる,最も大切な材料である.
 ミロのヴィーナスやサモトラケのニケのように,欠けていることによる不安定さや違和感が美を確立することもある.

 日本の様式美から無造作に切り取られて日常に放り出されたそれは風情の欠落を生み出す.
 その欠落が,風情という不確かで,しかし確かに存在した概念への執着を,見る者に植え付ける.

YouTubeとニコニコでは,全く性質の異なる2つの作品であるかのように,全く異なるキャッチフレーズを採用しています.

この作品を応募したのは「北九州デジタルクリエーターコンテスト2019」,テーマは「ないもの」です.

ないもの nothing

ないものを 考えよう
ないものは 無いから 考えられません?
本当に そうだろうか
ないものを 考えるとき あると ないの あいだから
あらたに 何かが 生まれている のです

KDCC北九州デジタルクリエーターコンテスト2019

この作品は,コンセプト自体を「ないもの」と考え,「水がなくても動き続ける鹿威し」というアイデアのみを元に製作しました.

そうやって意図するものがない状態で製作したにも関わらず,見る人によってメッセージ性を持つようになる,ということが表現できたのではないかと思います.

先に示したキャッチフレーズは完全に後付けのもので,単なる視聴者へのミスリードに過ぎません.

作品名も同様で,「taken-one」は
「taken one (from somewhere)」
「taken one (with another)」
「竹の音」
のように,どれとも解釈できるようなものにしてあります.

もし,この作品を見て何かのメッセージ性を感じていただけたとしたら,それはきっと「あると ないの あいだ」から「あらたに 何かが 生まれている」ということそのものであるはずです.


KDCC北九州デジタルクリエーターコンテスト2019 応募作品


8na:設計/加工
mrtb:コンセプト/回路/制御/動画
nooooa:動画補助